86限定モデル「14R-60」600万オーバーのそのスペックとは
8&B HMR(エイトアンドビーエイチエムアール)の石川です。2012年に86が発売されて最初の限定モデルとして登場したのが「14R-60」でした。価格はなんと630万とかなりの高額プライスで、当時の86の価格の倍以上という値段設定でした。こんなとんでもない86が限定モデルとして100台発売されましたが、改めてどのようなスペックだったのか振り返ってみたいと思います。
86初の限定モデル、「14R-60」 2014年10月発売
TRD(トヨタ・レーシング・デプロイメント)が2014年10月に限定販売したコンプリートカーが「14R-60」です。86初の限定モデルとしてはいきなり飛び抜けた性能と価格で出てきたので、発表当初はビックリしたものです。その原点は実は86が発売される前からになります。
■TRDが考える究極の86「86 TRD Griffon Concept」
TRDでは2012年にトヨタ86が正式発表される前から専用パーツの開発を行っていました。そのおかげで正式発表と同時にエアロパーツやスポーツサスペンションを始めとした多くの専用パーツをTRDからもリリースすることができました。しかし、TRDの開発陣は、更に86が持つポテンシャルをすべて引き出すため、サーキットを開発拠点にしたプロジェクト「Griffon(グリフォン) Project」を立ち上げました。「Griffon(グリフォン)」とは、古代芸術(ギリシア、イランなど)に登場する鷲(あるいは鷹)の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ伝説上の生物です。ライオンの如く疾く、一度掴んだ獲物を決して離さない鷲の如く、路面に吸い付くようなマシンをイメージしつけられただろうと思われます。TRDの精鋭チームによって誕生した「86 TRD Griffon Concept」は、サーキット専用車であるものの、公道向け市販モデルに転用するという前提で誕生しています。
サーキット専用車必須アイテムのロールケージは装着せずフレームのスポット増しやブレース類の追加での剛性強化、エンジンもハードチューニングエンジンではなく吸排気系を中心したライトチューン(後にピストン、コンロッド、カムシャフトが専用品に変更)、市販モデルにフィードバックを前提にデザインされたエアロパーツ、徹底的な軽量化が行われました。この究極の86は、筑波サーキットを58秒407というベストラップを記録に残しました。
■「Griffon」の血を受け継ぐ2台のコンセプトカー
TRDは、「86 TRD Griffon Concept」で得た結果と膨大なデータを元に公道走行可能なコンプリート86の開発に着手しました。そして2014年8月に富士スピードウェイで開催された「FUJI 86Style with BRZ」にて、TRDは2台のコンセプトカーを公開しました。1台は「86 TRD Griffon Track Edition Concept」。もう一台は「86 TRD Griffon Street Edition Concept」。どちらも公道走行可能ですが、前者はサーキット走行を前提に、後者はストリートユースを考慮したコンセプトで開発されました。後にこの2台が「14R-60」と「14R」となります。
2台のコンセプトカーが公開された2ヶ月後の2014年10月に、TRDは創立60周年を記念した100台限定のコンプリートカー「86 TRD 14R-60」を発表し、特設サイトで商談受付を開始しました。車名は、2014年の「14」、Racingの「R」、60周年を表す「60」で構成されています。
●エクステリア
「86 TRD Griffon Concept」で完成の域に達したデータをフィードバックした専用エアロで構成されています。どのエアロパーツも、クルマを知り尽くしているメーカー直系だからこそ可能な豪快かつ計算された形状、材質で構成されています。
迫力満点のフロントバンパーとカナードから、レーシングカーのノウハウが詰まったリアディフューザー、カーボンリアウィング。
空力と低重心化を狙ったカーボンルーフなどがこの86が只者ではないことをアピールしています。
●インテリア
「86 TRD Griffon Concept」のカラーリングである「オレンジ」「レッド」「ホワイト」を随所に使用した空間を演出しています。サーキット走行を前提しているため、シートは運転席・助手席ともに軽量かつホールド性に優れるフルバケットシートに変更されています。
●足回り・ブレーキ・ホイール
「14R-60」の注目ポイントの足回りは、専用設計の倒立式ショックアブソーバー、専用スプリング、ピロアッパーマウントセットの車高調整式サスペンションを中心に、強化ブッシュ、専用前後ロアアーム、リヤトレーリングアーム、トーコントロールアームが装着されています。サスペンションは、バネ下重量低減を狙い倒立式を採用しています。前後ロアアームはノーマル比+40%/+25%以上の剛性アップという凄まじいものです。ピロポール化したことでサーキット走行での強いGに耐えながらサスペンションの最大性能を発揮することができるようになっています。ヘタなレーシングカーよりも高いバランスで組み上がっている86究極の足回りシステムです。その足回りに装着されるブレーキは、14R-60専用のフロント対向4ポッド、リヤ対向2ポッドブレーキが装着されています。強力なストッピングパワーとコントロール性を両立しています。タイヤは、日本が誇るブリヂストン社が14R-60専用に用意したスポーツタイヤ「RE-11A 3.3T 235/40-R18」を装着。組み合わされるホイールは、市販車では数少ない軽量高剛性鍛造マグネシウムホイールが用意されました。
●ボディ・シャシー
ここまで徹底したチューニングであっても公道走行を考慮し、ロールケージを装着しない14R-60。コンセプトである「86 TRD Griffon Concept」と同等の剛性を実現するため車体に13箇所に及ぶ強化ブレースを採用し、しなやかな足回りの動きとレーシングカー級の高剛性を実現しました。しかし、剛性を上げることで歪みが生じる恐れのある箇所があります。それが、フロント・リヤウィンドウです。ボディの中で最も開口面積が広いのがその原因であります。この高剛性に対応するため、高強度接着材にて接着。これによって歪みを抑えるだけではなく、アッパーボデーの剛性向上も実現しました。
●エンジン
14R-60の心臓部である2.0L水平対向4気筒自然吸気エンジン・FA20本体はノーマルですが、吸入抵抗を低減するスポーツエアフィルター、サーキットでのハイペース走行でも安定した水温・油温を維持するエンジンオイルクーラー、鋭いエキゾーストノートを奏でるセンター出しマフラー、サーキット走行に対応したエンジンマウントで水平対向エンジンが持つ高いコーナリング性能を引き出しています。またオーナーの特権としてエンジンルームを開けた瞬間に目に飛び込むのは赤く塗装され中央にはCFRPプレートが装着されているインテークマニホールドカバーが装備されています。
●駆動系
14R-60に搭載されている6速マニュアルトランスミッションは、1,2速を3速に近づけたハイギヤード化、更にクルマの性格を左右するファイナルギアをローギア化し加速性能を損なわない専用クロスミッションが装着されています。合わせるクラッチはダイレクト感と耐摩耗性に優れるメタルクラッチ、フライホイールはノーマル比40%の軽量化を実現し鋭い吹け上がりとエンジンレスポンスを獲得しています。インターフェースであるシフターは、前後ストロークを8mmショート化したクイックシフターを装着し、素早いシフトチェンジを可能にしています。
■「14R-60」専用装備一覧
-エクステリア
・フロントバンパー(カナード付)
・フロントオーバーフェンダー(専用サイドマーカー付)
・サイドスカート
・リヤバンパースポイラー&リヤディフューザー
・GTウィング(スワンネック形状)
・エンブレム
・カーボンルーフパネル
・フロントフェンダーエアロフィン(カーボン製)
・リヤトランクスポイラー
・リヤサイドスポイラー
・エアロスタビライジングカバー
・リヤフェンダーエクステンション
・ウィンカーバルブ(フロント + リヤ)
・空冷式エンジンオイルクーラー
-インテリア
・フルバケットシート(運転席/助手席)
・インテリア シフトノブ(アルカンターラ)
・シフトレバーブーツ + パーキングブレーキブーツ(アルカンターラ)
・リヤカーペット(2シーター化)
・ドアスカッフプレート
・シリアルナンバープレート
・インテリアパネルフィニッシャー&ドアスイッチベゼル(カーボン製)
・フロアマット(運転席/助手席・車両搭載)*2
・ステアリングホイール(アルカンターラ)
・4点式シートベルト×2セット(競技専用部品 ・車両搭載)
-足回り
・235/40R18 専用ハイグリップタイヤ ブリヂストン製「RE-11A 3.3T」+ 18× 8 1/2J 専用マグネシウム鍛造ホイール(専用センターキャップ、レーシングナット付)
・マクファーソンストラット式フロントサスペンション(専用ショックアブソーバー + 直巻コイルスプリング + ピロアッパーマウント)
・ダブルウィッシュボーン式リヤサスペンション(専用ショックアブソーバー + 直巻コイルスプリング + ピロアッパーマウント)
・強化スタビライザーブッシュ
・フロントサスペンションタワーVブレース
・モノブロックブレーキキット(フロント対向4ポッド/リヤ対向2ポッド)
・フロントロワーアーム(高剛性、強化ブッシュ)
・強化ステアリングラックブッシュ
・リヤトレーリングアーム(高剛性、ピロボール化)
・リヤロワーアーム &ロワーアームカバー(高剛性、ピロボール化)
・トーコントロールアーム(強化ブッシュ)
-ボディ
・ウインドガラス高剛性接着
・フロントロワアームフロントプレート
・フロントサスペンションメンバーVブレース
・フロントサスペンションメンバー(高剛性品)
・フロントサスペンションメンバーサブフレーム(高剛性品)
・リヤサスペンションメンバーブレース
・ルームパーテーションパネル(カーボン製)
・リヤサスペンションタワーVブレース
・ロワーバックブレース
・リヤスタビライザーブラケットスペーサー
・リヤサスペンションメンバー(高剛性品)
・ドアスタビライザー
・ステアリングラックブレース
・リヤサスペンションフロントプレート
・フロントカウルガセットブレース
-駆動系
・クロスミッションギヤセット(1,2速クロスミッション)
・強化クラッチカバー
・強化メタルクラッチディスク
・軽量フライホイール
・強化デファレンシャルマウント
・クイックシフト
・機械式L.S.D(リミテッドスリップディファレンシャル)
・ファイナルギヤセット(4.555)
-エンジン
・スポーツエアフィルター
・ハイレスポンスマフラー(センター出し)
・オイルフィラーキャップ(アルミ製)
・ラジエターキャップ
・スポーツオイルフィルター
・インテークマニホールドカバー(本体色:レッド カーボンプレート付)
・オイルパンバッフルプレート(オイル片寄り防止)
・強化エンジンマウント
・デュアルエキゾーストテールパイプ
-その他装備
・スポーツドライブロガー
・ナンバープレートボルト
・キーホルダー
・セキュリティーナット
・牽引フック
・車検証ケース
■諸元表
●車両型式・重量・寸法・定員
車両型式:DBA-ZN6-VPNV8C
車両重量:1230kg
最小回転半径:5.4m
全長/全幅/全高:4335mm / 1820mm / 1305mm
ホイールベース: 2570mm
トレッド フロント/リヤ:1560mm / 1545mm
最低地上高:115mm
室内長/幅/高:950mm / 1490mm / 1060mm
乗車定員:2名
●エンジン
型式:FA20
総排気量:1998cc
種類:水平対向4気筒直噴DOHC
使用燃料:無鉛プレミアムガソリン
内径×行程:86.0mm × 86.0mm
圧縮比:12.5
最高出力<ネット>(kW(PS)/r.p.m.) 147(200)/7,000
最大トルク<ネット>(N・m(kgf・m)/r.p.m.) 205(20.9)/6,400~6,600
燃料供給装置 筒内直接+ポート燃料噴射装置〈D-4S〉
燃料タンク容量:50L
●走行装置
ステアリング:ラック&ピニオン式
フロントサスペンション:マクファーソンストラット式コイルスプリング
リヤサスペンション:ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング
フロントブレーキ:対向4ポッドベンチレーテッドディスク
リアブレーキ:対向2ポッドベンチレーテッドディスク
駆動方式:FR(後輪駆動)
●トランスミッション
種類:6速マニュアル
第1速:2.907
第2速:2.036
第3速:1.541
第4速:1.213
第5速:1.000
第6速:0.767
後退:3.437
減速比:4.555
新車価格:630万円(100台限定)
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