更新日時:2025/10/02
こんにちは。HMR広報の小川です。今回紹介する車は、ホンダの創立50周年を記念して世に送り出された特別な一台、「S2000」です。快適性や実用性といった要素を潔く割り切り、ドライバーがクルマと対話し、一体になる「走りの楽しさ」だけを純粋に追求して開発されました。速さの指標が馬力やトルクだけでなく、「気持ちよさ」や「操る喜び」にあることを教えてくれる、まさにホンダスピリットの塊。生産終了から年月が経った今、その価値はますます高まり続けている歴史的な名車です。
S2000のエクステリアは、見た目の美しさだけでなく、そのすべてが卓越した走行性能のためにデザインされています。
FRスポーツの理想形「ロングノーズ・ショートデッキ」 エンジンを可能な限り後方に配置する「フロントミッドシップ」レイアウトにより、FRスポーツの理想的なスタイリングと、優れた回頭性を両立しています。
ドアを開けた瞬間から、S2000が徹底したドライバーズカーであることがわかります。ドライバー中心の非対称インパネ 全ての計器やスイッチ類がドライバーの手が届く範囲に集中配置されています。F1を彷彿とさせるプッシュ式エンジンスターターやデジタルメーターが、走りへの期待感を高めます。
運転への集中を促す工夫 オーディオやナビを使わない時は、コンソールの蓋を閉めて視界から隠すことが可能。視覚的なノイズを減らし、ドライバーが純粋に運転に没入できる空間を演出しています。
S2000の魂、それは間違いなくこのエンジンに宿っています。AP1に搭載される「F20C」は自然吸気2.0Lで250馬力、リッターあたり125馬力 。この数値は登場から20年以上経過した今なお、一部のスーパーカーでしか達成できない世界最高峰のスペックです。許容回転数9,000rpmという官能的な世界 VTECによって8,300rpmで最大出力を発生。8,000回転を超えてからの、弾けるようなパワーと甲高いサウンドは、他のどのクルマでも味わうことのできない領域です。玄人好みの高回転型特性 低速トルクをあえて犠牲にし、高回転域でのパワーとレスポンスを徹底的に追求しています。
AP2に搭載される「F22C」は、排気量2.0LのF20Cエンジンから排気量を2.2Lに拡大し、ストロークを延長することで低・中回転域でのトルクを強化したのが主な変更点です。この変更によって常用域での運転がしやすくなり、環境性能は大幅に向上、U-LEV(ultra-low emission vehicle)に対応しました。エンジンの最高回転数が8,000rpmに抑えられ、最高出力もF20Cの250PSから242PSにダウンしたもののトルクアップや環境性能の向上により、S2000の「速いだけでなく、乗り手が楽しいと思える性能」というコンセプトをさらに熟成させたエンジンと言えます。
エンジンパワーを余すことなく路面に伝え、意のままに操るための駆動系は、まさにレーステクノロジーの結晶です。オープンカーの常識を覆した「ハイXボーンフレーム構造」 オープンボディの弱点である剛性不足を克服するため、フロアトンネルを背骨のように活用した高剛性ボディを新開発。これにより、クローズドボディに匹敵する強靭なシャシーを実現しました。さらに、理想的な50:50の前後重量配分 フロントミッドシップレイアウトにより、コーナリングの理想形ともいえる完璧な重量バランスを実現。クルマの動きが素直で、ドライバーは挙動を正確に掴むことができます。
サスペンションはインホイール式ダブルウィッシュボーンでレースカー直系の足回りです。極めて高い路面追従性を発揮します。ステアリングを切った瞬間にノーズがスッとインを向く、カミソリのようなハンドリングを生み出します。
トランスミッションは世界最高峰の6速マニュアル 完全専用設計された6速MTは、手首の返しだけで“コクッ”と決まる超ショートストロークが特徴。このダイレクトで官能的なシフトフィールは、世界中のスポーツカーの中でも最高レベルと評されています。
S2000は、快適性や万能性を求めるクルマではありません。エンジン、シャシー、コックピットの全てが、ドライバーとクルマが一体になる「対話する楽しさ」という一点のために作り上げられています。そのスパルタンな特性は乗り手を選びますが、クルマの声に耳を澄ませ、性能を最大限に引き出せた時の喜びは、他の何物にも代えがたいものがあります。現代では失われてしまった、高回転NAエンジンの魂とピュアな操縦感覚を味わえる、歴史的価値の高い一台です。